歌は心のストレッチ(24) 《エノケン》

戦後の暗い世相の中で、庶民に笑いを提供してくれたのが浅草で活躍していたエノケン(榎本健一)、ロッパ(古川緑波)、シミキン(清水金一)達コメディアンでした。私はシミキンのファンでしたが、当時テレビなどなく、映画でしか彼らの姿を見ることができず、先生に隠れてよく見に行ったものです。シミキンが堺俊二(正章の父)と組んで主演した映画「浅草の坊ちゃん」の主題歌「浅草の唄」(サトーハチロー、万城目正、藤山一郎)は今でも時々口ずさんでいます。

さて、戦後日本には2人のジャズシンガーが居たといわれます。正調派のディック・ミネとコミック派のエノケンです。私は少年の頃、エノケンが浅草オペラと称して歌っていた歌を何気なく歌っていましたが、これらがジャズのスタンダードナンバーだということは後になって知りました。エノケンが歌うジャズの歌詞はコミック調です。例えば、ダイナは「お酒をちょうダイナ」「愛してちょうダイナ」といった具合で、私の青空の「狭いながらも楽しい我が家」は流行語になりました。当時学生たちによく歌われたのが「月光価千金」です。エノケンの歌詞を若干アレンジして、カタカナの部分を英語やドイツ語など外国語に直して歌っていました。

ウツクシイ アノヒトニ 街で会ったなら やさしく淑やかに 膝間づいて

熱情を込めた ウインクかわし アイシテル そういって キッスを

しちゃいなさい あーら いけ好かない いやな方だわね そういって

にっこりと 笑ってくれたなら 彼女は タシカニ あなたのものですよ