『深い!』『溺れてる~』 と、意識はしっかりしているが… 身体は水の中でもがいている! 上下に動かしていた手足は、まさに 必死にバタついている状態…私は泳げなかったが、その時、とっさに平泳ぎのように両手を左右に動かし足をバタバタと上下させた。
結果、ようやくその危機から脱して岸辺にたどり着いたのである。随分と水も飲んだし、恐怖感が体を覆った。このことは70数年たった今もはっきりと記憶している。
当時、プールになんて行ける近所の家庭は米屋さんか、氷屋さんの子どもぐらいだ! 夏休みと言えばタライに水をはって、顔をつけたり水遊びをするぐらいだった。 そんな情景を見ていた両親が
子どもの喜ぶ顔をと連れて言ってくれたのは、木津川 水泳場だ。現 石清水八幡宮駅から徒歩7分程度のところにあった川の流れを利した水泳場で今はない。
溺れたのは川の本流から少し離れた直径10m程の水たまりであった。急に深みがあったのだ、とても、この恐怖の出来事は両親、兄妹には言えなかった。
近所の公衆浴場(風呂屋)でおっちゃんに怒られながら、浴槽で平泳ぎの真似をしていたのが生かされたのか、私は死ななかったのだ。 九死に一生を得た。
その時の思い出の中にあるのは、母親が朝早く起きて作ってくれたおにぎりの味である。そのおにぎりは,麦飯をとろろ昆布でくるんだもので、その塩味と共に忘れられないのが亡き母の優しさである。もうその母も平成18年に90歳で逝ってしまった。
夏が来れば…14年続けているスイミングスクールの水の冷たさと同時に、溺れたことと、麦飯のおにぎりの味、両親の慈愛が思いだされ、今もっていとおしい。