歌は心のストレッチ(28)《タンゴ》

敗戦後の混乱からようやく立ち直り、高度経済成長へと進み始めた昭和30年代初頭、各地で「歌声喫茶」がオープンしたことを前回紹介しましたが、そのころ社交ダンスも同様に流行っておりました。会社の同僚に誘われたとき「俺のようなずんぐりむっくりの短足には似合わないよ!」と言って躊躇したのですが、「社会人の嗜みとして今後必要になるよ」とかなんとか言われて、四条河原町高島屋の南にあった教習所に通いました。しかし、結局は途中でやめてしまいました。

やめるきっかけはタンゴです。ブルースから始まって、ワルツ、ルンバと順調に進んだのですが、タンゴになってどうも歯切れの良いリズムに乗れず、先生の脛を蹴飛ばすやら、足を踏むやらで、「やはり、大分の山猿には向いていないわい」と、やめてしまいました。

しかし、音楽としてのタンゴは大好きです。バンドネオンの歯切れ良いリズムを聴いていると心が晴れやかになります。好きな曲を2曲づつあげると、アルゼンチンタンゴでは「ラ・クンパルシータ」と「黒い瞳」、コンチネンタルタンゴでは「夜のタンゴ」と「真珠とり」、歌謡曲では「夜明けのタンゴ」と「黒猫のタンゴ」です。

教習所で常時流されていた曲は「夜のタンゴ」で、この曲を聴くたびに、私に脛を蹴飛ばされた先生は「お元気で居られるかな?」「どんなおばあさんになっているかな?」と若き日を懐かしく思い出しています。