コロナ感染予防と言うことでここ3年、中止されたり、無観客で行われていた瑞浪美濃歌舞伎公演が9月29日（金）30日（土）の両日相生座で公演された。京都から２００㎞名神自動車道をひとっ走り、３時間の時間を要したが、開演 ３０分前に相生座に到着した。
真新しい幟旗が私を歓迎してくれた
相生座前の幟旗（のぼりはた）の数がやたらに多い！しかも、真新しくて瑞浪地歌舞伎の意気込みが、幟旗（のぼりはた）本数や真新しさに込められているようで、幟旗（のぼりはた）のお迎えを見て「今年もやって来られた！」との感慨もひとしおだ！ちょっと早いが、受付を通り１階客席に入る。
『ちょっと違うぞ』明るい・・・、天井の照明がLEDに変わっている。舞台を照らす照明もすべてLED化されていた。
特に舞台照明はいろいろ試行錯誤をされて地歌舞伎の舞台を照らすに相応しい照明をと工夫されている。その効果は完璧だ！開演と共に即時にその違いを感じた。役者の一挙手一投足全てを逃すことなく照らし映えさせていたからして、観覧席の照明と共に相生座地歌舞伎の行く末を期待し、彷彿しているがごとくだ。関係者の努力と熱意を感じる。
舞台照明もLED衣装も役者も映える
2日の公演の内、29日は（金）は「敬老公演」と名打って、地域の高齢者と翌日30日に来館できない整理券をもつ者のみ入場が許されている。
従って、会場は2階席も含めて地域高齢者でほぼ満席だ。私は1Fに席を見つけ座ると、周囲のおばあさん4人程が目ざとく私の膝の不具合を見て取り、『この椅子にすぁりしゃい』と、座布団に座る私を小型の椅子に誘ってくれた。『こらぁありがたい』
見渡すと、皆さん地域の顔見知り仲間で座布団に座り、ミカンやお菓子などを分け合い、いろんな話をし、笑いあい、手をたたき、まさに、『田舎はいいな～』と思えるほどに、談笑しながら開演を待つ姿は、昔の小学校の運動会見物の昼ご飯時や田舎芝居小屋の打ちとけた観覧席の光景を思いださせる。
幕間の昼食時間がこれまた楽しそうだ。座布団を動かし、4～５人が車座になり、それぞれが作ってきたのであろう弁当を開けて、『この卵巻き、食べんね』
『この漬物美味しいよ』等と互いに交換し合うところが、地域の交流ともいえるほほえましい光景は見ていて、「いいな～、昔、我が地でもあった本来の敬老会のシーンだ」とうれしくなった。
私も本日出演する友の奥さまが作って持参頂いた昼食を食べながら、そのほほえましいおばさん達の交流をニコニコとしてみていると『この浅漬け、家で酒粕で漬けたんでどうぞ』とか、『稲荷ずしを どうぞ』とか、人なっこく皆さんと親しく会話が続くのも、流石がこの相生座のなさせる業かと遠慮なく頂戴した。
関谷太郎を演じる友、Y・O貫禄十分！
本日の演目は蟇妖術瀧夜叉姫（がまようじつ.たきやしゃひめ）と近江源氏先陣館（おうみげんじのやかた）の2演目でなかなかの力演目です。
11時から始まった蟇妖術瀧夜叉姫には昵懇のY・Oさんが出演する。彼とは13年前にスイス第九演奏旅行で、偶然にも同部屋となって以来、親交を深めさせて頂いている。
彼が、“関谷太郎”役を演じるということで大いに 期待し、遥々やってきた。
彼を含めた3人を除いて、他の役どころは全て小学生、中学生、高校生だが、見事に役どころをこなしているから驚きだ。主役の“浦部妻姫松”役を演じた中学一年生の女性の好演が際立っていた。声色、歌舞伎所作、立ち姿、どれ劣っても見せてくれる、瑞浪美濃歌舞伎の伝承努力の傑作の一人であろう。先々も楽しみだ！
彼女は「美濃歌舞伎子ども伝承教室」で学び大きく成長した一人であろう。伝承教室は本年23期目で、月に4・5回の稽古でセリフや動き、三味線、浄瑠璃等、一年を通じて学ばれているとのことです。このような地道な努力は相生座の維持管理、衣装、小道具、髷など歌舞伎諸道具の維持、更新に力を入れている保存会のご努力を見逃せない。
蟇妖術瀧夜叉姫開幕後の数十分、年少役者と熟女瀧夜叉姫の丁々発止の絡みが白熱を帯びて、観客席からやんやと投げ銭は飛ぶは、合の手が飛ぶは、賑やかなこと、舞台と客席が一体観を呈している。バケツで投げ銭を運び、ガバァと舞台に投げ入れるやからも出るからして賑やかで、楽しい！
その活況を呈している中、威風堂々と力強い 足取りで花道に現われしはわが友Y・Oが演じる “関谷太郎”だ。なんと、メイクアップ姿、衣装も大きく映えて、見違えるばかりの風貌である。
ちょっと待って！凄いぞ…。
威風堂々、熟達の境地だ！いぶし銀…
今まで見た彼とは大きくイメージアップ、花道から舞台へと進む足取りも威風堂々だ！正面舞台で姫松と瀧夜叉姫と対峙し、セリフ回しも大見得もまさに役どころ関谷太郎だ！ 流石、わが友「いいじゃないか！」思わず掛け声、合の手を発する私！
そして、彼は威風堂々と臆することなく、来た道、花道を堂々と闊歩し揚幕から姿を消した。その間、約５分足らずであったが、私は満足した！随分と練習したであろう。
私は舞台役者と共に地域の使徒たちの支えで整備され保存されている照明など相生座の姿や、照明に映える衣装、そして、一番の極め付きは浄瑠璃方：竹本美芳、三味線：豊澤順八の声色・音色も冴えわたり役者を鼓舞し、舞台は最高潮に導く浄瑠璃語りが大好きだ！『いいぞ！美芳、順八」全てにブラボー、素晴らしい！
Y・O、彼が過去いろんな役どころに挑戦する演目の努力の成果をを見る為に、私は今まで5・6回瑞浪相生座にやってきた。今回、彼の意気込みとおかれし立場をしっかりと舞台で表現していることに驚きと共に、畏敬の念を抱いた。
思うに、「美濃歌舞伎子ども伝承教室」で学んだ若手役者の存在と共に、いぶし銀的な役割を担う彼のような役者も、今後、瑞浪美濃歌舞伎が発展継承し続けるには益々必要となるだろう。 『歳だ！など、言うてる場合じゃないぞ、Y・O」
益々円熟味…変わらぬ久美子さんの貫禄
舞台客席同化、合の手・投げ銭は飛ぶ
❤瑞浪美濃歌舞伎感激のもう一つの楽しみは、小栗久美子さんの演技と容貌だ！美貌だ！いつもその努力と取り組みに声援を送る私だ！
美しい！品がありバランスのいい立ち姿、声色…すべての所作が美濃歌舞伎を 伝承し、今日まで先陣が培ってきた風土を知り、後世に引き継ごうとの思いが 舞台から切々と観客席に伝わってくるからして秀逸の役者さんだ！素人とは言うまい！
この美濃歌舞伎の保存伝承の資金面、人材育成面、地域力アップのどれをとっても久美子さんの祖父、今は亡きお父さん、そして、現会長の小栗幸恵さんの経営する日吉ハイランド倶楽部の存在抜きでは到底語られないと、地域の方々は話される。地域に瑞浪美濃歌舞伎を根付かせ、今なお、地域と共に行政の支援を受けて毎年、演目を新たにこの相生座で公演を行うなんて、並大抵ではなかろう。
おまけに、他所、新潟塩沢歌舞伎との交流を30年にわたって行う他、来年は交流を深めているハワイ大学「歌舞伎の卒業制作」のかつらや衣装の助言を現地で行う等、国際交流にも道を開いている。
案内によると、江戸時代からの歌舞伎衣装4500点、鬘など350点、小道具など300点を保管されてきたが、1971年（昭和46年）に日吉ハイランド倶楽部に寄贈された。この寄贈を契機に日吉ハイランド 倶楽部従業員により地歌舞伎が行われるようになった。1972年（昭和47年）には美濃歌舞伎保存会が結成され、その保存会の会長は歴代日吉ハイランド倶楽部経営者が担い、瑞浪美濃歌舞伎として様々な伝承への努力をなされてきたそうだ。
その保存会現会長が久美子さんの母、小栗幸恵さんである。保存会の果たしてきた役割功績はまたの機会に伝えよう。
照明．衣装．役者の演技秀逸だ！
楽しみの演目、近江源氏先陣の館の主役を演じるのが、盛綱、高綱役の母を演じるのは小栗幸恵の実娘、小栗久美子だ、そして、孫の小四郎役を久美子の実子碧華（小学３年）小三郎役を久美子実子古都芭（小学1年）演じる。
演目の筋書きは上手く伝えられないが…、争いの谷間に落ちた息子盛綱、その弟高綱を助けたい一心で、孫小四郎にこの世に生まれた不運とあきらめ小四郎の首を差し出さんとする、小四郎は小四郎で自分の首を差し出すことで父上盛綱や叔父高綱の手柄となるなら切腹を覚悟するのである。
首実験の時に、偽物と知りながら、小四郎は「父上、さぞかし悔しかろう、私も後から追いつかん」と、偽りの言をもって、自ら幼い命を絶つのである。
ここが一番の見せ場で…、久美子と碧華の切々とした語り、所作、私のつたない文章表現では表し得ない、切々とした心底悲しい心根、小四郎の健気さ・・・、
この場面に限らず、久美子、孫役の碧華、古都芭の絡みが絶妙で、しわぶきひとつ聞こえ来ぬ観客席、熱演に涙し、拍手すら忘れてしまうばかりだ。
毎回、この久美子さん演じる役どころと二人の実子の成長ぶり・歌舞伎役者の 力量アップがとても楽しみだ。
しわぶきひとつ聞こえない迫真の演技
我が年齢を考えると高速道路は運転が難しくなった。実のところ、いつも一泊して友、Y・Oと芝居がはねた後に一献傾けるのであるが、今回は日帰りでとんぼ返りだ、片道200㎞の道のり、日が暮れないうちに、安全運転で帰宅しなければならない…、
暗くならないうちにと一番の見せ場を残して帰宅の途についた。自宅には5時過ぎに無事ついた。
高速道路は心底難しい運転を迫られた。すべての自動車の性能が近年よくなっている。スピードアップの車が多い、大型トラックも速度を増して、多くの大型 トラックもが追い越し車線を走行する、一方、走行車線には速度厳守して80㎞厳守で走る車もある。
走行車線を80㎞厳守で走っていると、トラックが迫ってくる。そこで、追い越し車線にハンドルを切ると、今度は走行車線に戻るのに苦労する。
追い越し車線の速度は120㎞になろうとする。走行車線に戻ろうとすると、走行車線の車もスピードを上げている…、走行車線に戻るにも命懸けだ！
やっぱり、我が歳（83歳）で高速運転はしんどいな～、意志強固に走行車線を走ればいいんかな～。自信を持ってるマイカー運転でさえ、高速道路の運転は厳しくなってきたと実感している。
しかし、来年以降もY・Oさんの地歌舞伎挑戦も見たいし、円熟味を増す久美子さん、成長著しい碧華、古都芭の成長する演技も見たい、更に、「美濃歌舞伎子ども伝承教室」出身の多くの役者の頑張る姿も見たい！ そして、素晴らしい瑞浪地区の皆さんとの交流も楽しみたいと思っている。
瑞浪美濃歌舞伎の益々の発展と地域に根差した美濃歌舞伎保存会の根気強い伝承活動に期待いたしたいとの思いで一杯です。
秋の一日岐阜県瑞浪相生座、美濃歌舞伎公演を堪能させていただき唯々感謝あるのみです。
ありがとうございました。 最後までお読みいただき感謝！！（完）
Yamashin